
中学受験生の皆さん。あこがれの第一志望校は決まっていますか? 志望校に向けて力の限り学習を続けていることでしょう。もう一方,気になるのがその他の受験校。いわゆる併願校です。適切な日程と難易度で併願校を選ぶことにより,第一志望校の合格可能性も高まります。第二志望,第三志望校やチャレンジ校を決めるときに留意すべきことを知っておきましょう。
■併願作戦に重要な「午後入試」について、こちらをご覧ください。
→コラム「そうだったのか!中学入試」第11話・・・「午後入試の話」(2011年1月24日)
将来の志望別ケース・スタディ
では,将来の目標や居住地などの異なる何人かの受験生を例にとって,実際の併願パターンを考えてみましょう。志望にあった学校を選びながらも,必ず試験日や難易度の異なる学校を組み合わせることがポイントです。
1.医学部に進みたい
A君の場合(荒川区在住)
A君は,病気や怪我に苦しむ人々を救うことができる,外科医にあこがれています。将来は,国立大学の医学部に進みたいと思っています。
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江戸川取手
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渋谷幕張
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開成
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巣鴨Ⅱ
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海城2
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Bさんの場合(船橋市在住)
Bさんは,難病の研究に取り組み,治療法を見つけて世界中の人々の役に立ちたいと考えています。大学は,医学部に進もうと今から決めています。
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東邦大東邦(前)
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桜蔭
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白百合
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豊島岡2
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普連土3
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A君もBさんも,医学部への現役合格率が高い学校を選んで併願パターンを組みました。1月の受験校として選んだ江戸川取手・渋谷幕張・東邦大東邦の3校は,医学部など理系に強い進学校として有名です。A君の第一志望校は開成,Bさんの第一志望校は桜蔭ですが,千葉・茨城など試験日程の早い地域の学校を併願校として取り入れています。埼玉の栄東や開智などを選んでもよいでしょう。
2.国際派として活躍したい
Cさんの場合(横浜市在住)
英語に興味があるCさんは,せっかく私立中学に進むなら,ネイティブの先生や帰国生・留学生の多い環境で国際感覚を養いたいと考えています。将来は海外に留学するつもりです。
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国府台女子
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頌栄
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洗足学園2
(午後入試)
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八雲学園3
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実践女子3
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D君の場合(川口市在住)
英語ペラペラのビジネスマンになりたいD君は,世界を股にかけて仕事をするのが夢です。そのためには,英語はもちろん,ほかの国の言葉もいくつかマスターしておいたほうがいいかなと思っています。
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浦和実業(特)
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獨協埼玉
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栄東B
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学習院
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暁星
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Eさんの場合(柏市在住)
Eさんは,翻訳家か通訳になるのが目標です。常磐線沿線やその近くの学校で,英語の授業が充実していて,できれば海外への修学旅行や語学研修のあるところを希望しています。
1/7 | 1/12 | 1/20 | 1/29 | 2/1 |
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常総学院
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茗溪学園
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専大松戸
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土浦日大2
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江戸川女子
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3人とも,語学教育や国際理解教育に積極的な学校を選んでいます。上記の学校に限らず,私立中学には,外国人講師による授業や海外語学研修・ホームステイなどが経験できる学校が珍しくありません。CさんもD君もEさんも,県外の学校にも目を向けた結果,バランスの良い併願パターンを組むことができました。
3.将来は理工系に
F君の場合(杉並区在住)
コンピュータに大変興味があるF君。自分のホームページも開設しています。将来は,大学や大学院の理工系のコースに進んで専門の勉強をするつもりです。
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東海大浦安
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芝浦工大
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都市大付2
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中大附2
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工学院大附3
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Gさんの場合(川崎市在住)
子どもの頃から好奇心が強かったGさん。今は,理科の実験や観察の時間が大好きです。夢は大きく,科学者になってノーベル賞をとりたいと思っています。
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国府台女子
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日本女子大附
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吉祥女子2
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桐蔭(理)二次B
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鴎友3
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F君もGさんも,理科や数学の授業が充実している学校や,大学の理系学部への進学率が高い学校を選びました。東京・神奈川の私立中入試は2月1日から始まりますが,複数回試験を行う学校も多く,2月5日以降の試験も視野に入れれば併願パターンの幅が広がります。また,1月に試験を行う千葉や埼玉の学校を併設校に加えることもできます。
4.付属校希望だが,大学受験の可能性も…
H君の場合(江戸川区在住)
H君は,受験がなくて好きなことに熱中できそうな大学付属校を希望しています。ただし、ほぼ全員がそのまま大学に行けるのは早慶やMARCHの付属校などごく一部。大学受験も視野に入れながら、大学付属校を中心に選択します。
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千葉日大一
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日大二
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立教池袋
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法政大2
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明大中野2
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Iさんの場合(練馬区在住)
将来は医療系や栄養士などの資格を取れる大学に進みたいと考えています。それに対応した大学の付属校を中心に受験校を選択します。
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大妻嵐山
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東京家政大(躍)
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文京女(特)
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(午後入試) |
日大豊山女4
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付属校から他大学受験に挑戦する場合,通常は併設大学への推薦権は失われますが,H君やIさんの選んだ学校の中には,併設大学への推薦権を保持したまま他大学受験が可能な学校もあります。ただし学校によっては,他大学受験を「併設大学に設置のない学部のみ」「国公立大学のみ」などと制限している場合もあります。また,付属校でも他大学受験への対応が整った“進学校的付属校”も増えています。志望校の選択にあたっては,「ここは付属校だから…」などといった先入観にとらわれず,多方面から学校研究を進めることが大切です。
5.公立中高一貫校を併願する
Jさんの場合(さいたま市在住)
公立中高一貫校を目指し適性検査対策を進めてきたJさんは,大学受験に向けて進学指導に優れた私立も併願することにしました。入学後は国立大学合格を目標に勉強をがんばるつもりです。
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大宮開成(英数)
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市立浦和(1次)
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淑徳与野
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市立浦和(2次)
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大妻
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K君の場合(西東京市在住)
K君は大学付属の男子校を目標に受験勉強を進めてきましたが,近隣の公立中高一貫校の評判を聞き,こちらもチャレンジしたいと考えました。私立中学受験のための勉強に加え,適性検査にも対応できるよう,思考力や表現力も鍛えています。
1/10 | 1/25 | 2/1 | 2/3 | 2/4 |
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(午後入試) |
立教新座
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聖徳学園(適)
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都立大泉
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明大中野2
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2人とも,近年人気を集めている公立中高一貫校を受検します。入学者の選抜は「入学試験」とは呼ばず「適性検査」や「作文」を行います。学校で習った教科の知識を直接問うものではなく,適性検査や作文を通じて「問題を発見して解決する能力」や「表現力」などを評価します。
公立中高一貫校の適性検査は一般的な私立入試問題と質が違うといっても,教科の知識は決して無駄になることはありません。むしろ中学入試のために勉強した知識は表現力の土台になります。最近は適性検査型入試を行う私立中学が増えてきました。K君のように併願校に加えて経験を積む作戦はおすすめです。私立と公立を併願することは有効な手段ですので,自信を持って臨みましょう。
出願時の留意点
このケース・スタディでは志望に沿った異なる5校を組み合わせて併願パターンを組んでいますが,出願に際しては,同一志望校の試験が複数回設定されている場合は,前の試験の結果を見てからでなく,事前にまとめて出願しておくのが一般的です。それにより,学校によっては受験料が割引になったり,合否判定時に優遇されたりする場合があります。
また,同じ試験日で難易度の異なる2校に出願しておき,どちらを受験するかはそれまでの試験の状況を見て決める“ダブル出願”も,中学受験ではよく見られます。多くの学校が取り入れるようになってきた午後入試と組み合わせれば,より有効です。最近は,入試当日にHPにて合格発表をする学校も増えてきました。前日までに合格を確保できていればチャレンジ校を,そうでなければ安全校を,といった作戦が可能になり,より万全な併願パターンを組むことができます。
併願校決定 チェックポイント
1 志望校に対する研究は十分か
少子化と回復しきれない経済状況の中で,中学受験者数は2003年から増加したのち,少子化の影響か2008年から減少傾向が続いています。私立学校を取り巻く経営環境はまだまだ厳しいものがあります。そのような状況下,多くの私立学校が生き残りをかけて学校改革に取り組んでいます。公立中高一貫校受検も定着し,今はまさに中学入試が激変の渦の中にいると言っても過言ではないでしょう。まさに学校は生き物です。従来の評価だけではなく,その学校がどのように変わっていこうとするかを学校説明会などで知り,悔いの残らない併願作戦を立ててください。
2 自分の志望が明確になっているか
付属校か進学校か,男子校・女子校か共学校かについて,中学を受験する目的と自分の将来を充分に考え,単なる偏差値の上下だけで決めることのないようにしたいものです。
3 第一志望・安全校・チャレンジ校の設定
目標があるから人は頑張れます。自分の志望にかない,実力で手が届きそうな学校(第一志望)があれば努力を苦労と思わずに勉学に励めます。第一志望校が不合格でも希望にあった学校(次善校),万一実力が発揮できなくても合格できる学校(安全校)を受けることをおすすめします。
また,第一志望校を受験する前に雰囲気に慣れるための練習校をつくることも大切です。
一生に一度の中学受験ですから,合格可能性は低くとも挑戦してみる学校(チャレンジ校)を受験するのもよいでしょう。
4 通学時間は妥当か
自分の志望にあっても,通学に片道2時間以上かかるようでは,これから6年間通学することを考えると心配です。実際にその学校に行ってみて,妥当な通学時間かどうか計ってみることが大切です。なお,通学時間制限のある学校(栄光学園・女子学院など)もあります。
5 来年の情報を確実につかんでいるか
各校の入試日は毎年不変なものではありません。最近は入試日を前年よりも1~2日早く設定する前倒し傾向が強まっています。また,今まで2回・3回募集を実施していなかった学校が実施するようになったり,試験科目を変更したりすることもあります。午後入試を行う学校も増えました。昨年までの情報に頼るだけでなく,常に最新の情報に接するようにしてください。
一生に一度の中学受験です。学校研究や情報収集を十分に行い,同校の複数回出願や,同日のダブル出願も検討しながら,納得のいく併願作戦を立てていきたいものです。