
第59話「2014年中学入試レポート― 2月 神奈川の私立中入試(1) ―」
2014年7月9日
1.神奈川の私立中学入試
神奈川には公募している私立中学が61校あり、男子校が12校、女子校が23校、共学・併学校が26校です。その多くは横浜市、川崎市と鎌倉市、藤沢市などの湘南地区に集中しています。
横浜は神戸とならび幕末の開港以来欧米文化の受け入れの窓口となったため、明治初期から宣教師や修道女によって設立されたミッション系の伝統校が多いのも大きな特徴です。61校中キリスト教主義の学校は23校で3分の1を超えています。また高校募集のない完全中高一貫校が25校とその比率が高いのも特徴といえます。
さらに神奈川私学が千葉・埼玉と異なるのが東京私学との関係で、東京・神奈川の私学はさまざまな面で連携していて、特に入試日程(入試解禁日)は東京と歩調をあわせて2月1日以降としています。そのため千葉・埼玉のような1月入試はなく、東京の受験生の「試し受験」の対象にはなっていません。言い方を換えれば、東京と神奈川の私立中学は「同じ土俵」で戦っているといってもよいでしょう(高校受験でも同様です)。
なお学校名の右の数字は2013年→2014年の応募者(前年比)と倍率、倍率は[合格者/受験者]による実質倍率で、合格者は正規合格者で繰り上げ合格者を含めずに算出しています。またMは男子、Fは女子です。
(1)男子校
まず上位校から見ていきます。
栄光学園 | 718→669名(93%) | 2.2→2.3倍 | ||
聖光学院 | 1回 | 722→798名(111%) | 2.8→3.1倍 | |
2回 | 818→873名(107%) | 4.8→5.4倍 | ||
浅野 | 1,936→1,863名(96%) | 2.6→2.6倍 | ||
慶應義塾普通部 | 574→596名(104%) | 2.9→3.1倍 |

聖光学院
トップ3校では聖光学院(横浜市中区)に勢いがあり、都内上位生も相当数受験しています。新校舎を建設中ですが教室棟はすでに完成し、生徒は全学年新校舎で学んでいます。残る第4期工事は体育棟、野球場、サッカー場で、今年の10月に完成しグランドオープンとなります。大学合格実績もこの3年間の東大合格者数が65→62→71名と好調で、首都圏では開成、筑波大駒場、麻布、駒場東邦に次いで5位(全国順位は6位)です。
栄光学園(鎌倉市)も新校舎建設中ですが完成は3年後の2017年です。かつては県内男子校のトップ校という確固とした評価がありましたが、ここ数年は聖光学院が入口の入試、出口の大学進学ともに並んできているため、横浜の受験生がこのところかなり聖光学院に流れているようです。この3年間の東大合格者数は70→52→67名で、前年にかなり減りましたが、今春は15名増と大きく回復しました。聖光学院も71名に増えたため神奈川の東大合格者数トップの座を奪い返すことはできませんでしたが、学校規模(今春卒業生数は栄光学園が178名、聖光学院が239名)を考慮した[東大合格者数/卒業生数]の割合では、栄光学園37.6%、聖光学院29.7%です。
浅野(横浜市神奈川区)は2月3日という入試日のため、県内全域および都内城南部の男子上位生が集中し以前は2,000名を超える応募がありました。県内では栄光学園や聖光学院、都内では麻布、駒場東邦や芝などとの併願受験者が多い学校です。この2年は応募者が1,900名前後になっていますが、合格者を絞り気味にしているため、この3年間の倍率は2.7→2.6→2.6倍と安定しています。
慶應義塾普通部(横浜市港北区)は現在新校舎を建設中で2015年完成予定です。横浜市に所在する学校ですが、生徒の約6割は都内生です。数年前までは応募者が800名前後でしたが、この3年間は500名台になっています。このところ広報活動にも積極的に力を入れており、学校の教育内容を積極的にアピールしています。そのためか今春入試の応募者数は慶応系3校の中でわずかながらも唯一増加しています。
以上4校に続く学校をみていきます。
サレジオ学院 | A | 494→393名(80%) | 2.7→2.2倍 |
B | 583→507名(87%) | 3.9→3.4倍 | |
逗子開成 | 1次 | 510→603名(118%) | 2.0→2.4倍 |
2次 | 414→522名(126%) | 3.3→4.9倍 | |
3次 | 372→543名(146%) | 3.0→4.6倍 | |
鎌倉学園 | 1次 | 492→525名(107%) | 2.9→3.1倍 |
2次 | 451→507名(112%) | 3.1→3.8倍 | |
3次 | 401→404名(101%) | 3.6→3.9倍 | |
藤嶺藤沢 | 1回 | 100→126名(126%) | 1.8→1.9倍 |
2回 | 127→202名(159%) | 1.5→1.4倍 | |
3回 | 140→146名(104%) | 1.6→1.6倍 | |
4回 | 137→159名(116%) | 1.4→1.7倍 |
サレジオ学院(横浜市都筑区)の応募者はAが20%減、Bが13%減でともに倍率が下がりボーダーあたりでやや緩和しているようです。応募者減の要因としては前年のAの倍率上昇、難化によって敬遠され、かなりの受験生が芝や逗子開成へ回ったことが考えられます。
逗子開成(逗子市)は前年の東大4→14名、一橋大4→10名、東工大5→10名と難関国立大学合格実績の大躍進で大注目校となり、予想通りすべての回で応募者が急増し倍率・難易度とも上昇しています。2015年入試では今春の反動で応募者が減る可能性もありますが、敬遠して減るのは主にチャレンジ層でしょうから難易度が大きく下ることはないでしょう。
鎌倉学園(鎌倉市)はライバル逗子開成が注目を集め応募者が急増しましたが、こちらもしっかり応募者を増やしています。前年は応募総数が23%減だった反動もありそうですが、大学合格実績が東大2名、一橋大2名、東工大4名、東北大2名、早慶上智大144名などと好調だったことも好調の理由でしょう。各回とも倍率は上がっていますが、難易度は変わっていないようです。繰り上げ合格が複数回受験者から16名出ました。
なお2015年入試より2月1日午後に算数1科目入試が定員15名で新設されます(合格発表は1次と同じ2/2の19:00)。他の回(1次~3次)の日程、試験科目は変わりませんが、算数1科目入試の新設に伴い3次の定員が40→25名に減員されます。また従来通り複数回受験者に対する優遇がありますが、この算数1科目入試は4科目入試の1次、2次、3次とは独立した入試ですので複数回受験にはカウントされません。
藤嶺学園藤沢(藤沢市)は前年入試で応募総数が39%の大幅減でしたが、今春はやや回復し前年比12%の増加です。前年の応募者減に対する反動とともに、前年の大学合格実績が一橋大2名、東北大2名など上向いたことも応募者増の要因でしょう。併願校は男子校では逗子開成が減り、鎌倉学園が増え、共学では関東学院、湘南学園、山手学院、日大藤沢などが多いようです。
(2)女子校
まず上位校の応募状況から見ていきます。次の3校はいずれも横浜の山手の丘にある創立100年を超えるミッション校で神奈川女子御三家と呼ばれている学校です。
フェリス女学院 | 466→396名(85%) | 2.2→2.0倍 | |
横浜雙葉 | 215→187名(87%) | 2.0→1.8倍 | |
横浜共立 | A | 369→331名(90%) | 2.1→1.9倍 |
B | 711→468名(66%) | 4.2→2.8倍 |
3校とも知名度の高いブランド校ですが、見ての通り今年はかなりの応募者減です。トップレベルの学校がそろってこれだけ応募者を減らすのはあまり例のないことです。3校とも減っていますから、A校からB校あるいはC校に受験生が流れるというような志望動向の変化とは明らかに異なる動きです。また上記3校に続くレベルの学校も応募者が減っているので堅実な受験校選択(いわいる安全志向)によって1ランク下の学校に受験校がシフトしているわけでもありません。後述のように上記3校に続くレベルの学校も応募者が減っているからです。
最上位校がことごとく応募者を減らした理由として、
- 1. 県内の女子上位受験生が女子学院などの都内の上位校に回った。
- 2. 都内城南部や多摩南部から横浜の上位校を受験する女子受験生が減った。
- 3. 神奈川の女子上位生そのものが少なかった。
などの複合的要因と思われます。

フェリス女学院
トップ校のフェリス女学院(横浜市中区)の応募者15%減が目立ちますが、これは前年に416→466名と大きく増えた反動もあるでしょう。また前年は応募者が急増ながら欠席者も27名と多く、今年の欠席者は例年並みの11名で、倍率は2.2→2.0倍とやや下がっていますが難易度はほぼ前年並みでした。なお在籍生に占める都内生の割合は全学年合わせて11%です。今春の大学合格実績は現浪合わせて、東大10→15名、京大1→3名、一橋大11→9名、東工大5→9名など国公立大合計で76→90名、また難関私大でも慶応大48→88名。上智大32→43名、早慶上智大合計では183→235名など好成績をあげていますから(2014年3月卒業生184名、併設のフェリス女学院大は0名)注目が集まる可能性が高そうです。
3校中唯一のカトリックミッション校の横浜雙葉(横浜市中区)は併設小学校から約90名が進学してくるため中学からの募集が90名と少なく、応募者は200名台と小規模な入試でしたが、4年連続の減少で今年は200名を切り、応募者、受験者とも13%減です。倍率も2.0→1.8倍となりボーダーあたりが緩和しているようです。
横浜共立(横浜市中区)のAは前年応募者が微増でしたが今年は10%減です。Bの応募者が34%減と大きく減っていますが、これは通常2月3日で500名台のBの入試日が2013年は日曜日を避けて2月4日に移動したのが2014年は例年通り3日に戻ったためです。しかし減るのは当然ですが減り方が予想外に大きかったようです。難易度はA,Bともにやや緩和しているようです。
なお2015年は2月1日が日曜日のため、この3校の入試日は1日から2日に変わり(横浜共立のBは3日→4日)今春の入試状況とは大きく変わることが予想されます。
次にこの3校に続くレベルの学校の入試状況を見ていきます(帰国入試を除く)。
鎌倉女学院 | 1次 | 527→508名(96%) | 1.8→1.7倍 |
2次 | 574→515名(90%) | 2.8→2.9倍 | |
湘南白百合学園 | 286→220名(77%) | 1.9→1.5倍 | |
洗足学園 | 1回 | 343→312名(91%) | 3.4→2.8倍 |
2回 | 668→583名(87%) | 3.4→3.0倍 | |
3回 | 591→593名(100%) | 4.8→5.9倍 |
この3校のうち前2校はフェリス女学院などの神奈川女子御三家の定番の併願校ですから、応募者数が御三家3校の応募者の増減に左右されるのは当然ですが、個別にみるとそれぞれの学校の事情もあるようです。
鎌倉女学院(鎌倉市)は創立110年目を迎えた古都鎌倉の伝統校です。応募者は1次が4%減ですが、受験者数では474→472名と2名少ないだけで、2次も受験者数では235→231名と4名少ないだけですからほとんど前年並みです。合格者を絞ったため倍率はむしろ上がっています。難易度は1次、2次とも前年並みと堅調な入試でした。
江の島を望む高台のカトリックミッション校の湘南白百合(藤沢市)は併設小学校から約100名が進学してくるため、中学からの募集は一般生60名(帰国生5~10名)と非常に少なく、併願受験者が多いにもかかわらず応募者は例年200名台です。ここ数年応募者数に隔年現象が見られ、前年は応募者が13%増でしたが、今年はその反動もあるのか23%減です。合格者を156→149名と絞っていますが倍率は1.7→1.4倍と低下。しかし難易度はほとんど下がっていないようです。今春の大学合格実績は東大2→3名、一橋大0→2名、東工大0→1名、東京外大1→2名、早慶上智大123→139名(卒業生数171名)と好調だったので応募者数を回復する可能性が高そうです。
なお2015年入試では併願受験者が多いフェリス女学院、横浜雙葉、横浜共立A・Bの入試日移動による入試日のバッティングを避けて、鎌倉女学院が1次2日→1日、2次4日→3日、カトリックミッションの湘南白百合は2日→1日、また入試状況については割愛しますが同じくカトリックミッションの清泉女学院はⅠ期2/1→2/2、(前回のミッションショックで2/3→2/4に移動したⅡ期は2/3のまま)と入試日を移動します。以上は神奈川のミッションショックの年の通例で、2月1日入試と2日入試の入れ替わりですが、入試日程の前後が逆になるため入試状況が変動する可能性もあるので注意を要します。
洗足学園
洗足学園(川崎市高津区)の応募者は1回が9%減、2回は13%減、3回は前年並み(2名増)でした。この3年間で総受験者数が1,508→1,359→1,270名と減少していますが、これは明らかに難易度が上がって横浜雙葉や横浜共立を上回るようになり、チャレンジ層に敬遠された結果です。併願校もフェリス女学院が多いのは変わりませんが、桜蔭が増えてきて受験者層が確実に上がっています。したがって1回、2回の倍率は下がっていますが難易度は変動せず高値安定です。また今春の大学合格実績が、東大4→6名、一橋大2→3名、東工大1→3名、阪大0→1名、国公私大医学部医学科12→17名、早慶上智大130→151名(卒業生数239名)などと好調です。なお2015年入試では1日の1回の定員を80→100名と増員し、2日の2回の定員を100→80名と減員します。これによって女子学院や神奈川女子御三家などと併願する最上位層をさらに集めそうです。
(おわり)
[次回予告] 「2014年中学入試レポート ― 2月 神奈川の私立中入試(2) ― 」
次回は今回に続き神奈川の女子中堅レベルの学校で注目される学校、および神奈川の共学校の2014年入試の状況をお伝えします。